拈華微笑

我が琴線に触れる森羅万象を写・文で日記す

黒い老師サマ

 昨日,今日と一緒に仕事したミカエルはボクによって,"老師"とあざなされることになった。

 彼とは去年あたりからちょくちょく引越し・梱包の仕事をするようになっていた。昨日,今日と久しぶりに会って働き,よく観察すると、じつに素晴らしい,稀に見る人間・・・と思うようになった。できた人間なのだ。

 こいつが墨染を着て歩いても少しも不思議じゃない、むしろピッタリして大いに人をよく導く人だと思った。

ダイイチ、本人は少しも、できてる・・・とか、なんとか、そんな世界,知りもしないし、興味もないだろう。だから偉ぶる,気取るなどの単語には無縁、故にほんまに凄い男とボクはこんな娑婆で、請負会社の,日雇いの作業員としてやって来た彼と出会った幸運を神仏に感謝する。
 と云っても,別にそんなことを話すわけでもない,<老師>とボクが勝手に心のなかで名付けただけで、そのままの彼を見て楽しんでいるだけ。愛嬌のあるギョロ目のアフリカ系黒人の男。

 日本の精神文化は確かに深いものを持っていると思う、でその世界にたずさわっている人の中には,知らずに逆に捕らわれて<臭い>人が多いもの事実だし、なかなか洒脱な人にお目にかかるのは難しい。

 ミカエルはアフリカ・アンゴラ出身のポルトガル人で、歳の頃は40−45?植民地であったアンゴラから子供の頃,両親とポルトガルに移住。詳しいことは知らないがスイス・ジュネーブに来て引越会社に務めていた。昔はイタリア女性と結婚して子供もいたようだが,離婚して彼女は子供を連れてイタリアへ帰ったそうだ。現在失業中で時々アントニオの仕事を手伝っている。一見ブッシュマンを思わせる華奢な体型だが力があり、物の運搬テクニックにじつに長けている。

 彼を見ているとよく思われがちな,南方の人間は怠け者みたいなイメージは一掃される。常に背筋をピンと伸ばし,物を大事に扱い、梱包も丁寧で速い。きつい仕事も率先して引き受ける男。一緒に昼飯をたべるが、静かにゆっくり食べ,ボクのようにガツガツしない。飲むのは必ずガス入り水で食後のコーヒーは飲まない。しかし、ユーモアがあってよく笑う。

 アントニオによると、彼は毎晩、よく酒を飲み、朝起こしに行ってもなかなか起きてこないのが、玉にキズなのだ・・・となげいていた。  まぁ、彼は独身だし、酒ぐらいのむだろうよ、タバコも良く吸うが・・・。