拈華微笑

我が琴線に触れる森羅万象を写・文で日記す

<魔女>の食卓より

 <エロチシズム>の話を昨日したが、実はその日の朝、それまでの右側坐骨神経痛が少し良くなって気を良くしていた矢先に、今度は左側腰痛(軽度)となり、ええーっと内心落ち込み、例のギャラリーのエロチシズムどころではない心境ではあった。この経験は<エロチシズムとは健康のバロメーターなり>・・・という深淵なる真理を導くこととなった。

 それを慰めるかの如く、深夜に白雪がふりつもり、朝起きると一面の銀世界。

 莫妄想!と、二重腹巻をしっかり着装して、我々夫婦、日曜の第二ルート山手<蓮池巡り>への散歩に出かけた。
わがアパートの裏の坂道を登っているとき、<魔女>に出会ってしまった。ニコルの古い友人の一人で、隣人でもある70歳の彼女は世が世であれば間違いなく魔女の烙印を押されていたに違いない・・とボクなどは確信している女性だ。

 新年の挨拶(ほっぺに3回キッスする)を交わし終えると、<散歩の帰りに昼食に寄らないかね・・>と招待された。
怖いもの見たさの好奇心からボクは喜んで賛同し、1時間半後に立ち寄ることにした。・・・・蓮池はすっかり氷に閉ざされ、秋に見た鮮やかな赤の金魚やカエルたちはこの氷の下に居るのだろうか、などと考えながら散歩は終に近づき、私たちは冷えた体を暖めようと<魔女のアパート>へと急いだ。

 彼女アンヌ・マリーの話の仕方を初めて見聞きした時から、どこか普通の人と違う・・・ということがボクは気になっていた。妻のニコルはそんなことは全然気にならないようであるので、あえて言及を控えていたのだが、やはり今日も普通の人とかなり違う雰囲気を漂わしている。彼女の家に招かれるのは三度目であるが、食卓のある大きめのキッチンには初めて入った。食卓の色の組み合わせの美しさに眼を奪われそうになった時、逆光の中に立っていた彼女の眼が微かに笑っていたのをボクは見逃さなかった。第一、壁の色がローズ色なのだ。そこに何枚かの写真が掛けてあり、その一枚は2隻の小さなボートが沈みかけている場面であった。

 いろいろと話しているうちに話題がSF映画とインターネットのことになり、ボクは相手が<魔女>であることをすっかり忘れたのと、去年と比べると自分自身のフランス語の<出具わい>に気を良くし珍しく饒舌になっていた。

 英国風手作りお菓子<スコーンズ>を二つに切ってバターとジャムをつけ、紅茶でいただくデザートはこの世のものとは思えない風味をかもし出し、

 彼女と彼女の生活スタイルからボクは伝統的西欧の香りを実感したのだった。