拈華微笑

我が琴線に触れる森羅万象を写・文で日記す

 継ぐ人々


    伏見稲荷の池の亀

 こんどの旅(京都〜金沢〜城崎温泉〜尾道〜神戸)っていうか、めったに旅をしない今回のボクの旅は、これまで行ったことがないところ、ただ実家へ帰る為の旅ではない
 スイスに住んでいてちょっと小耳に挟んだ憧れの地名…そんなところへ行ってみたい気持を実現したものだった。
 
 今回の帰国で自分でも少し驚いたことがあった。それは、ボクが見知らぬ人々に自ら挨拶をする…という、一見当たり前のようだけれど照れ屋で人見知り気味の昔のボクと比べると
 スイスというかヨーロッパの慣習に薫習されたボクは意外に意識+無意識的に『挨拶の言葉』を人々にかけていたのだ。

 そのせいか、旅も思い出深く楽しいものになったような気がする。
 ちょっとした出逢いの中で交わした言葉、相手の環境などを観察するともなく見守ったとき、ほんの一端であるけれども日本の片隅で起こっている、そしてそれは案外
 日本のいたるところで起こっていることなのではないかと思ったりした。

 それはどういうことであったか?というと、大げさに言えば『文化の継承』みたいなことが、様々なレベルで行われている、ということであろうか。

 エピソード1:『とうふ』…という白いネオンサインに黒く書かれている看板はあたりが民家が立ち並ぶ夜道では、結構目立って、店の前を通る時ガラスケースの中に
 入っている3,4種類のとうふと、2/3だけ開かれた店の扉から昔ながらの豆腐屋のたたずまいにボクと相方は立ち止まって見入っていると、中から若い男が出てきて
 声をかけてきた。彼は30前ぐらいに見えたが、最近家業の豆腐屋を継ぐ決意を固めたそうで、その創意工夫の第一弾として営業時間外であるけれど、とうふのショーケース
 を店の前に出してみることにしたそうだ。『豆腐はそのまま家に持って帰って、食べれるものですからね…』。 たしかに薄暗い帰り道、他に何にも店も無いような道であれば
 豆腐屋が豆腐を売っているとわかれば買って帰る人も出てくるであろう。24時間営業のスーパーがきっとこの近くにあったりするのだろうけど、昔ながらの豆腐屋さんが一丁
 二丁単位で豆腐を売っている…というのも伝統を重んじる京都らしくて、というか、この青年の心意気みたいなものが有難い気がしたものだ。

 エピソード2: 旅第一日目は京都3泊する、いま流行している『ゲストハウス形式』のホテルが東本願寺と渉成園の近くであったので、まず雨の中東本願寺を訪ねた。 
 ボクは二十代後半神戸に住んでいたので京都には何回か、来ているが東本願寺は初めてで、広々とした敷地内に実に立派な寺院を構え、本堂の畳敷きの大広間に靴を脱いで
 くつろぐ事が出来、親しみやすいのはやはり親鸞さんの浄土真宗だからだろか?などと思ったり。
 山門をでて、宿のある方に歩くと、道の両脇に仏教関係の物を販売している店がアチラコチラに観られた。
 そのうちの一軒に、ニコルは仏教徒が使う数珠をどうやらアクセサリーの腕輪に欲しいようで入った。
 店には50代の女性と若い男性がいて、その女性の方がニコルに数珠のいろいろを取り出して見せてくれた。色合いと値段が手頃の数珠があったのだが、腕輪にするには
 ちょっと大き過ぎると言うと、数珠の玉を外して調整できますよ・・・とのこと、奥からご主人らしき人が出てきて、畳の上で早速作業を始めてくれた。
 その間、奥さんのほうが店が何代も続いた古い店であることや、この地区自体が、数珠屋がたくさんあるのでここらあたりが下数珠屋町という地名であること…などなど
 教えてくれた。そこでボクは親鸞さんは何時代に活躍されたのですかね?と聞いたのだが、これが案外の質問だったようで、店の上がり場にいる多分親子3人は皆、あやふや
 の模様。ついに奥さんは奥の部屋に行って年表を持ってきた。それで鎌倉時代初め、ということがわかった。
 東本願寺の膝下に住む数珠屋の主人等が親鸞さんの出生について不明であることと、悪びれもせず、年表を持ってきて親子で話会う…そんな場面にほのぼの親鸞の面目をみた気がした。
 ボク等が店をでたあと、息子がニコルに見せた幾つかの数珠を片付けているのが見えた。

 エピソード3: 帰国の旅第一夜、前もってネットで調べていた一番宿に近い『梅湯』へ出かけた。ニコルはさすがにクタビレて、宿の風呂を使った。
 ボクは何年かぶりの、夢にみた『銭湯』の湯につかって、親鸞さんではないが『極楽・極楽』の境地へ・・・。それで、旅第二夜も今度はニコルを連れだって『梅湯』。
 女湯のほうからニコルの明るい声が響く、さっそく湯友ができたのだろう。ボクは先に上がって番台の方へ。そこには銭湯なのになぜか古本やら中古レコードが『100円』で
 販売していた。ちょうどアンチャン2人が来て、そのうちの一人がレコードを買った。そう言えば、知り合いの農家から…とのことで産地直送の野菜が銭湯の玄関においてあった。
 へ〜っと思ったものの、銭湯で販売していた『レトロ銭湯へ、ようこそ・関西編』松本康治著という本を買って後でよんだが、ちょうど『梅湯』の現在に至るイキサツ物語も記述されていた。
 梅湯は明治時代から銭湯で、それが、2015年若干25歳の風呂オタク湊三次郎さんが後を継ぐ事になった…という。たまたま行った『梅湯」にこんなイキサツを書いた本と出会うなんて!

  などなど、京都の3泊4日の滞在だけでこんだけのエピソード…その他いろいろ話があったけど、今日はこのへんで。