拈華微笑

我が琴線に触れる森羅万象を写・文で日記す

金箔の街


金沢の街の印象を一撮するとこうなる…という写真(画面中央右よりに悠然と立っている鷺をお見逃し無く)

日本の金箔のほとんどが金沢で作られているそうだが、金沢で最初に入ったお土産屋さんらしい店は、何でもかんでも金箔だらけで、その時は理由をしらなかった。
その店の女性店員さんが『これは一押しの土産物』…という感じで、相方ニコルに現物を手に持って薦めてきたのは『ゆず香り・金箔打紙製法あぶらとり紙5セット』品。
ボクはあぶらとり紙に金箔が入っているのか?!と思ったが、そうではなく金箔が貼り付いている和紙のことであるとはスイスに帰ってから知った。
だからその時は『汗のあぶらとりに金箔がなんで必要なんだ?』と思いつつヘンテコリンな土産物に怪訝な顔をしていたに違いない。

兎に角、金沢で金箔が盛んになった理由の一つに、金箔を利用した作業に必要な『湿気』が金沢に備わっている・・・ことだそうだ。
昔から金沢では『弁当は忘れても傘は忘れるな』と言われるくらい雨の多い街だそうで
金沢が『渋い』街であるのは薄暗い陰気にそれとは対照的な金箔の輝きを取り入れた文化にあるのだろうか。

その『金箔』の如き…小さいがキラリと光る思い出が二つあり、いずれも僕等が宿にしていた『銀松』のある『ひがし茶屋街』でのこと。

一つ:昼食はうどんにしたい…というニコルの希望であったが、長屋のようにずら〜っと似たような軒先が続く茶屋街では何屋さんがどこに
   あるのか、さっぱりわからず細い路地をぶらぶらしていると、ニコルが『あっ!』というので、格子越しにテーブルについている人々
   を見ると、確かに箸でつまんでいるのは麺であった。うどんではなかったが、蕎麦屋さん。
   テーブルは満席のようなので、カウンターへ。
   席について落ち着いてよく見るとカウンターに面している棚はオーディオセットそれも、かなりマニアックな大小のスピーカーが備えられ
   ピアノ曲が静かに流れている…し、カウンターの椅子もスナックのように高くなっているので、蕎麦が来るまでそば屋ではないような雰囲気。
   山菜そばがきて、すすっているとボクの右横一つあけた椅子に若い着物姿の女性がかけた。しっかりした着付けのわりに、学生のような
   溌剌とした印象なので、『着物だと今日のように暑いと大変では無いですか?』と、ボクが声をかけると『いえいえ、夏用に下着が…』
   その先はなんと言ったか、よく覚えていないが兎に角『薄いとか、涼しい』とか工夫がなされているので『大丈夫です』とのこと。
   彼女が注文したものが来て、それを見ているボクに『これは私の ま、か、な、い なんです、この近くの甘党の店でアルバイトしてるんです…』
   とのこと。聞いてもいないのに話してくれたので、僕等夫婦もスイスから来たことなどを話すと、『うわ〜、ヨーロッパですか。』と眼はヨーロッパを
   思い浮かべている様子。彼女は本業は画家で、昼間はこうしてバイトをしているという。『この近くに見晴らしのいい山があるんですけど、行くので 
   あれば、入り口の道までご案内しますよ〜』と言ってくれたが、とても疲れて山に登る元気はない。その代わりに市内でお薦めの所を地図にマーク  
   してもらった。一緒にそば屋を出て、『さよなら〜』と言い残し店に駆け戻る彼女の着物の後ろ姿を見送った。

もう一つ:同じ『ひがし茶屋街』の路地を歩いていた時、格子窓越しにカウンター奥の方にじっと立っている女性のシルエット。
     看板を見るとカフェ・Gauche(ゴーシュ)…とあり、歩き疲れた足を癒そうと、中に入る。
     じっと立っていた女性はニコリともせず、しかし、『いらっしゃいませ』とは多分言ったのだろうと思う。
     促されて、靴を脱いで畳の間へ上がると2席は掘りごたつ風、厚手の木製丸テーブルは畳のまま
     彼女のいるカウンターの前は掘りごたつ風に足を下ろせるので、ニコルとそこに座る。
     客は我々だけなので、遠慮なく内装をジックリ観察。『へえ〜、まさに和洋折衷』畳の上で、ガラスドリップ式コーヒーが飲めるなんて!
     彼女が立っているカウンターはほんの2メートルぐらいの幅で、後ろは装飾されたガラス壁面で小さな和庭園が天窓の光でよく見える。
     だから、外から彼女のシルエットが強調したように見えるわけだ、それにしても客が誰もいないのにじっと立っている…ところがポイントか。
     
     カウンター越しに対面だから、この愛想のよくない彼女も話している内に打ち解けたのか、店名『ゴーシュ』は今日はいない店主が宮沢賢治の
     童話『セロ弾きのゴーシュ』から名付けたこと。金沢の天候のこと、東京から移転してきたこと、我々のことなどを話している内に笑顔も。
     店を出る時に、さっと一枚のハガキをボクに差し出して、『私はガラス工芸をしているのですが、今度おこなう展示の案内です…』と手渡してくれた。
     透明な犬ガラス作品の写真…のハガキ、大事にしまいこんで今、不明だが、幸いなことに彼女のブログ・アドレスをひかえていたので読んでみると
     自分で『私は人見知り』…という一文があって、なるほど…と納得。