拈華微笑

我が琴線に触れる森羅万象を写・文で日記す

人間スケッチ:黒人の暑い,厚い,熱い唇

 先日仕事帰りのバスに乗っていた時の話。

 ボクは,出勤するときはだいたいキックボードですーーっと6分ぐらいで駅に下り降り,帰りはしんどい時は市内バスを利用する。その日は暑い日で少しくたびれていたのでバスを利用した。バスに乗り込みボクは後ろ向きの席に座り出発を待っていた。
 ほんとうにローザンヌにはいろいろな人種の人間が住んでいるものだ・・・と思いながらバスに乗り込んでくる人達を見ていた。じきに出発し、ボクに対して横向きに、垂直の鉄棒を両手で掴まって立っているアフリカ系黒人男性に目が止まった。ハッチング帽をかぶったがっちりした体格のその男は時間を持て余し気味に、両手を伸ばして掴まっていた腕を,少しずつ鉄棒の方に屈曲したかと思うと、黒人独特のブ厚い唇を鉄棒に押し当てて4秒ほどその感触を楽しんでいるかのようにうっとりした目をしていた。ボクは唖然・・・としてその信じられない光景をジーッと見ていたが、他にも見ていた人がいないかとあたりを見回したが,これを見たのはどうやら、ボク一人だったらしい。

 最初の停留所でその黒人が降り、アラブ系の中年の男と若い女が乗り込んできた。坂道をバスが発進した時,アラブ系の男は,スッと手を伸ばし、まさに黒人が厚い唇を押し当てたばかりの部分に掴まったのだ。

 これを見たとき、ボクは潔癖症のニコルのことを考えた。彼女は決してバスの中では手すり,つり輪に素手で普通に掴まらず、停止の合図ボタンも人差し指の第二関節の背の部分で押すのだ。ボクはいつもこの潔癖症を半ばバカにしているのだが、この一連の光景を見たとき・・・少し考えさせられた。

 この,どうてないこと無い光景はどこか滑稽だが、兎に角,生まれも,育ちも、文化も、何もかも違う人々が,一緒に暮らしているのだなぁ・・・と、つくづく思った一場面であった。